『音楽表現学』目次と要旨一覧
音楽表現学 Vol. 10
【原著論文】三島 郁
記譜における身体性とその規範化
─鍵盤楽器用アルマンドの記譜と当時の作曲法にみられる音型
の成り立ちより─
要旨:17世紀後半から18世紀前半にかけての鍵盤楽器曲における
音型の形成原理と作曲概念を明らかにするために、舞曲「アルマ
ンド」の記譜のありかたを分析、考察した。その際作曲家論や様
式論からではなく、楽譜上の音型の書き表しかたとその変化、そ
して18世紀のドイツの音楽理論家F. E. ニート (1674–1717) の
作曲法に着目した。
「アルマンド」の記譜法と音型においては、声部を強調した書法
から、左右の両手用という、身体的な要素をより大きく反映させた
書き方へと変わっていった。しかし一旦記譜に固定化されると、再
びその身体性が記譜の中に規範化されることにもなる。またニート
はアルマンドの作曲において、バス上の和音の構成音の分散和音や
、単純な順次進行の使用を主張している。これは、和音進行の中で
、鍵盤上を動く指が作りやすい音パターンの組み合わせの実践である。
音楽作品に表れる音型においては、このような身体性に注目する
部分があってもよいはずである。
キーワード:アルマンド、チェンバロ演奏、記譜法、身体性
竹下可奈子
ムーソルグスキイの中期歌曲集《子供部屋》にみられるロシア語
イントネーション模倣の特徴
─初期、後期の歌曲との比較から─
要旨:本研究は、ムーソルグスキイの中期歌曲集《子供部屋》に
みられるロシア語イントネーション模倣の特徴を、彼の初期、後
期の歌曲との比較を通して明らかにしようとするものである。歌
曲集《子供部屋》は、これまでロシア語模倣の極致などと評され
ながらも、その旋律線がどのようにロシア語イントネーション(
音高)を模倣し作曲されているのかについては、詳細な検証が行
われてこなかった。そこで本研究では、分析の観点を歌詞におけ
る「ストレス音節の扱い」と「文末の処理」に定め、それに基づ
いてムーソルグスキイの初期・中期・後期における歌曲の旋律線を
概観することによって、《子供部屋》にみられるロシア語イント
ネーション模倣の特徴を明らかにすることとした。その結果、中
期に作曲された《子供部屋》に収録されている歌曲は、初期・後
期の歌曲と比べて、歌詞のストレス音節の音高を変化させること
によってロシア語イントネーションを模倣するという特徴が明ら
かとなった。また、フレーズ末の音高を基本的に下降して終了さ
せるという特徴もみられ、これらの点がロシア語イントネーショ
ンを模倣した《子供部屋》特有の特徴として見いだされた。
キーワード:歌曲集《子供部屋》、ロシア語イントネーション、
ムーソルグスキイ、模倣、旋律線
【書評】
曽田 裕司
トレヴァー・ウィシャート著、坪能由紀子、若尾裕訳『音あそび
するもの よっといで』
【第10回(Blue Valley)大会報告】
HP「大会のご案内」「過去の大会」をご覧下さい。
日本音楽表現学会 「会則」等諸規定