『音楽表現学』目次と要旨一覧

   要旨は目次の後に掲載しています。

音楽表現学 Vol. 8

【目次】

[原著論文]

Sota, Yuji
From Form to Frame: Ruth Crawford Seeger’s Prelude No. 7

李 敬美
ナンタに見る韓国伝統音楽の現代化
 ―ナンタにおける韓国伝統リズム定型「チャンダン」の様相―

[評論論文]

坂東  肇
アルフレッド・コルトーの音楽表現についての一考察
 ―エドゥアール・リスレールの演奏音源を通して―

後藤  丹
岡野貞一の旋律構造
  ―作品特定の手掛かりとして―

 

[研究報告]

寺内 大輔
楽譜提示装置「スコア・スクローラー」による音楽表現の可能性

長尾 智絵
明治後半期(1887年~1910年)の2拍子唱歌の旋律・リズム様式分析について

[書評]

仲 万美子
佐野仁美著『ドビュッシーに魅せられた日本人 フランス印象派音楽と近代日本』

 

[第8回(響の都)大会報告]

〈基調講演〉
河村 晴久
 表現する身体

〈シンポジウム〉
安藤 政輝・河村 晴久・佐々木 正利・山名 敏之
表現する身体をつくる

〈分科会〉

学会企画 統一テーマワークショップ「音楽表現の理念と技法」

應和 恵子・齊藤 祐

No.1 声楽表現の理念と技法―歌唱法と発声の視点から― 

No.2 管楽器における表現の理念と技法

─サクソフォンとフルートから見た「音」の様相─

〈ワークショップ〉
河村 晴久
能の表現―所作と音楽の関係―

後藤 丹・長谷川 正規
リコーダー2本吹きの基礎─ソプラノとアルトを用いて─

中村 隆夫
合唱が本来の合唱であるために ─コダーイ・メソッドを活用して─
ワークショップ あるべき音とあるべき身体の相関を探る

  河村 義子・田上 耕三
─ピアノ演奏において意識できる身体を作る第一歩─ 

〈共同研究〉
小畑 郁男・深井 尚子
演奏における身体と表現
─ショパンOp.23、ベートーヴェンOp.101に関する2つのアプローチ─
菅 道子・山名 敏之
アウトリーチの理念に基づいた「協同創造型」音楽プログラムの開発
─組曲《動物の謝肉祭》を題材にした「どうぶつのおとえほん」を事例として─ 
村尾 忠廣・奥 忍・安田 寛
日本語の歌と西洋の歌のエクスプレッション
 ─教科書教材におけるわらべ歌、唱歌、童謡の発想記号を問い直す─ 

〈デモンストレーション〉
李 敬美・中村 滋延
韓国伝統打楽器を用いたライブコンピュータ音楽の試み

〈研究発表〉
五十嵐 睦美
・保育者養成大学におけるピアノレッスンの実態─カリキュラム分析と受講者への意識調査に基づいて

伊達 優子
・保育者養成校のピアノ教育における拍子に対する意識の育成―変奏曲学習の実践を通して―

疇地 希美
・歌のリズムと言葉のリズム―わらべうたのリズムと記譜法―

長尾 智絵
・「おべんとう」と「唱歌調」―日本人の2拍子リズム表現―

三島  郁
・舞曲の作曲にみられる創造的演奏領域―18世紀前半の鍵盤楽器曲を事例に―

堀田  光
・鍵盤楽器の歴史的変遷に基づいたピアノ作品の解釈に関する一考察
─ロマン派に至るまでの作曲家の幼少期の作品を中心に─

佐々木 陽子
・言語指導行為に着目した小学校音楽科の授業分析
─新人教師とベテラン教師による授業記録の比較─

小森 光紗
・教員・保育者養成課程におけるピアノ教育導入期の指導法研究
―創作楽譜の実践を通して―

佐野 仁美
・昭和10年代の民族派作曲家における異文化受容─早坂文雄の場合─

阿部 亮太郎
・三善晃の三部作に対する批評に見られる問題について

吉田 惠子
・保育所・幼稚園における子どもの歌─仏教唱歌(讃歌・聖歌)をめぐって─

加藤 晴子・加藤 内藏進・藤本 義博
・音楽表現とその背景にある季節との関わりについて
 ─日本やドイツの春の歌を例に─

橋本 智明
F.シューベルトとA.サリエーリの関係性

中村 順子
・ ヴァニエ夫人のための歌曲─ドビュッシーの高声の探求─ 

嶌  晴子
・歌を歌う人の声や喉の不調とその原因 2─文献調査と聞き取り調査を通して─

中 磯子・高橋 秀典
・歌唱指導が歌唱力の向上に及ぼす影響の考察─音声周波数の解析を用いて─

寺内 大輔
・楽譜提示装置「スコア・スクローラー」による音楽表現の可能性─これまでの実践報告と今後の展望─

小波津 美奈子
・唱歌における日本語表現と沖縄歌曲の魅力と表現法について

佐野 晴美
・日本歌曲の新しい視座―京ことばによる歌曲の演奏表現についての一考察─

山名 敏之
・ハイドンのクラヴィーア作品におけるクラヴィコード的性格

上山 典子
・リストのピアノ教授法

川北 雅子
・阿波人形浄瑠璃の現状

光平 有希
・楽器を用いた古代ギリシアの音楽療法

鈴木 慎一朗
・障害理解社会の創成をめざす音楽ワークショップ―2009年度活動報告―.

酒井 勇也
・P.クレストンのリズム理論に関する一考察
─サクソフォン作品にみられるリズム構造の分析を通して─

近藤 真子
・音楽的コミュニケーション能力を促す初期ピアノ教育の考察
―芸術的アプローチ(art-based approach)による―

鷲野 彰子
・J.V.ヴォジーシェク《ソナタOp.20》(1820-1824)の成立と構成

松井 萌
・武満徹のピアノ独奏曲におけるペダルについての一考察─響きをつくり出すための技法─

李 敬美
・ナンタにみる韓国伝統音楽の現代化の可能性

阿部 祐治
・「ニルヴァーナ」の音楽表現と日本におけるその影響

日本音楽表現学会会則

日本音楽表現学会編集委員会規程

日本音楽表現学会機関誌『音楽表現学』投稿規定

注及び引用文献の記載方法例

成果発表・研究会関係細則

経費関係細則

編集後記

 

【論文の要旨】

From Form to Frame: Ruth Crawford Seeger’s Prelude No. 7

Sota, Yuji

【要 旨】 Ruth Crawford Seeger, one of the American modernist composers in the 1920s and 1930s, is especially renowned for her use of dissonant counterpoint. This article focuses on her Prelude no. 7 (1928), which is an atonal piece written before her study of dissonant counterpoint. This piece is marked by dense motivic relationship, which is suggestive of the compositional technique of the atonal period of the Second Viennese School. The form of this piece looks like a mere juxtaposition of three similar sections. This article analyzes their contours, similarity relations, and literal inclusion identities, drawing on pitch-class set theory. These analytical methods eventually present the respective formal models. The analyses dealing with the same contents lead to varied formal models. This consequence suggests that this piece refuses the notion of a fixed form derived from the contents. Instead, the three sections could form the durational frames independent of the contents. This notion would be later developed by the American experimental music composers such as John Cage. This article presents a hypothesis that Crawford’s Prelude no. 7 employs the durational frame as the American notion, while the piece draws on rigid motivic relationships of her German contemporaries.

Keywords: Ruth Crawford Seeger, modernism, post-tonal composition, pitch-class set theory

 

 

ナンタに見る韓国伝統音楽の現代化
―ナンタにおける韓国伝統リズム定型「チャンダン」の様相―

李 敬美

【要 旨】 現代という時代から伝統音楽を捉えなおし、韓国の新たな音楽を創造しようという「伝統音楽の現代化による創造」の最も成功した例として、非言語パフォーマンス「ナンタ」は、韓国のみならず国際的にも高く評価されている。本論では、このナンタの音楽に用いられている韓国的感性の象徴とも言うべきリズム定型チャンダンに着目し、プンムルからサムルノリを経てナンタへと至るその様相の変遷をたどることによって、ナンタにおける伝統音楽の現代化の一面を明らかにした。ナンタでは、限定された種類のチャンダンを音楽の構成要素として用い、現代のテクノロジーと融合させることによって総合芸術としてのパフォーマンスを現出させている。

キーワード:サムルノリ、ナンタ、プンムル、チャンダン

アルフレッド・コルトーの音楽表現についての一考察 
―エドゥアール・リスレールの演奏音源を通して―

坂東  肇

 

【要 旨】 コルトーは、20世紀前半のピアノ演奏史上に屹立する存在のみならず、指揮者、室内楽奏者、教育者としても、歴史的な功績を遺し、音楽表現のあり方そのものに革命的な問いを投げかけた。その異彩を放つ演奏スタイルは、徹底した自己省察(批評精神)に裏付けられた強固な表現として、時代による風化を許さないほどのものとなっている。  このような表現を生み出したコルトーの演奏解釈はどのような背景から生まれたのか。本稿では、彼が大きな影響を受けたと考えられる、リスレールとの関係に光を当てるなかで、浮かび上がってくる演奏家コルトーの原点を明らかにしようと試みた。そして、双方が遺した演奏録音から、ショパン及びリストの作品の演奏を手懸りに、コルトーの演奏解釈とリスレールの演奏との照合、比較、検証を行った結果、リスレールの演奏がコルトーの表現思想の基礎となっていることが導き出された。

キーワード:コルトー、リスレール、デフォルマシオン、演奏解釈 、演奏芸術

岡野貞一の旋律構造―作品特定の手掛かりとして―

後藤  丹

【要 旨】 岡野貞一(1878~1941)はいわゆる文部省唱歌の代表的な作曲家とされている。しかし、『尋常小學唱歌』中のどの歌の作曲に関わったかについては不明な部分が多い。  本稿では、まず、「合議制」による『尋常小學唱歌』の制作の過程を、近年になって東京藝術大学で発見され2003年に翻刻出版された『小學唱歌教科書編纂日誌』によって検証し、作曲に関しては岡野を含む6人の楽曲委員が基本的に独立して仕事をしたことを確認した。  次に、『尋常小學唱歌』以外の資料から、他の楽曲委員5名および岡野が作った旋律を探し出し、比較・分析して共通の要素および岡野固有の作曲手法をまとめた。  最後に、抽出した岡野旋律の特徴を『尋常小學唱歌』全120曲と照合し、曲同士の関連も考慮に入れつつ、《紅葉》《朧月夜》《故郷》《冬景色》《雁》《秋》《廣瀬中佐》《浦島太郎》《春が来た》《入営を送る》等については岡野作曲の可能性が極めて高いと推論した。

キーワード:岡野貞一、尋常小學唱歌、小學唱歌教科書編纂日誌、リズムと音列

楽譜提示装置「スコア・スクローラー」による音楽表現の可能性

寺内 大輔

【要 旨】『スコア・スクローラー』(2006)は、私が考案・制作した楽譜提示装置である。一般的な譜面台よりもやや大きな箱状の装置で、箱の小窓から、内部のロール紙に記された音型や指示が見える。指揮者がハンドルを回転させることによってロール紙が動き、小窓から見える音型や指示が刻々と変化していく。2006年11月30日、オランダ国立美術館で、スコア・スクローラーを用いた音楽作品『ワンデイ・クローサー・トゥ・パラダイス』(2006)の初演が行われた。その後、スコア・スクローラーのための2作品を発表した。本稿では、スコア・スクローラーの概要と特徴を解説し、それを用いたこれまでの音楽表現実践と今後の可能性について述べる。

キーワード:サウンド・インスタレーション、作曲、自由即興演奏、スコア・スクローラー、管理された偶然性

明治後半期(1887年~1910年)の2拍子唱歌の旋律・リズム様式分析について

長尾 智絵

【要 旨】 本報告は「基本拍内旋律リズム要素組合せ」による、明治後半期(1887年~1910年)2拍子唱歌の様式分析について報告したものである。この組合せとは、基本拍で旋律要素を「同音」と「非同音」に、リズム要素を「付点」と「等分」に区別し、「同音付点」「非同音付点」「同音等分」「非同音等分」の4通りに組合せたものである。  この方法を用いた標本調査の結果から、「基本拍内旋律リズム要素組合せ」は明治後半期における「唱歌調」の検証に有効である見通しを得た。例えば、明治後半期の唱歌では、4通りの組合せのうち、「同音付点」が出現する比率は他の種類の歌に比べて最も高い値を示した。「同音付点」とは、これまで嶋田由美の言ってきた「基本拍内同音反復」と同じものである。従って、これまで検証されていなかった「基本拍内同音反復」による明治後半期の唱歌の音楽的特徴についての指摘が正しかったことが推定できた。  以上の結論は、明治後半期の唱歌、尋常小学唱歌、新訂尋常小学唱歌、童謡、わらべ歌、アメリカの唱歌、アメリカの子ども讃美歌の2拍子曲、計64,704拍を調査した結果である。

キーワード:唱歌 様式分析 基本拍内同音反復 唱歌調